<資本コスト算定>

資本コストや株価を意識した経営を実践するために

【1】資本コスト算定の必要性
2023年3月31日付で、東証から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」が公表されました。これは、プライム市場及びスタンダード市場に上場する全上場企業に対して、コーポレートガバナンス・コードの中でも触れられている「資本コストを意識した経営」を要請したものです。この要請の背景には、2021年6月に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」があり、[原則5-2 経営戦略や経営計画の策定・公表]では、『経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては、自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人的資本への投資等を含む経営資源の配分等に関し具体的に何を実行するのかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである」とされています。

東証がコーポレートガバナンス・コードの改訂に続いて「資本コストや株価を意識した経営の実現の対応について」を公表した背景としては、株主の立場から見た上場企業の評価が低い状況が続いたことを『改善』したいという考えがあったことによります。東証としては、「プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場企業がROE8%未満、PBR1倍割れと、資本収益性や成長性といった観点で課題がある状況」を問題視していたわけです。

東証が対応を要請したのは、以下の一連の対応を継続的に実施することです。
 1.現状分析    (1)自社の資本コストや資本収益性を的確に把握
           (2)その内容や市場評価に関して、取締役会で現状を分析・評価
 2.計画策定・開示 (1)改善に向けた方針や目標・計画期間、具体的な取組みを取締役会で検討・策定
           (2)その内容について、現状評価とあわせて、投資者にわかりやすく開示
 3.取組の実行   (1)計画に基づき、資本コストや株価を意識した経営を推進
           (2)開示をベースとして、投資者との積極的な対話を実施

東証の要請に基づいて、既にコーポレートガバナンス報告書において資本コストを開示している企業もあります。また、一部の上場企業においては、事業年度毎にROIC/資本コスト(WACC)/EVAスプレッド/PER/ROE等を継続的に算定し、事業管理に利用するのはもちろん、株主との対話のための資料として利用(開示)しています。東証は、具体的な開始時期の定めを設けていませんが、「できる限り速やかな対応」を要請していますので、上場企業側は、まず現状分析を実施する必要があります。

【2】資本コストとは
資本コストとは、企業が資金調達する際のコストのことです。企業が資金調達することができるのは、投資家の期待リターンを満足している場合ですから、資本コスト=投資家の期待リターン といえます。つまり、取引の相手方である資金提供者である債権者や株主等の立場からみると、融資・投資の見返りとして要求する対価が資本コストであると考えることができるのです。
資本コストのうち、株主から調達したものは『株主資本コスト』、銀行借入れや社債発行等の間接金融によって調達したものは『負債コスト』と言います。そして、『株主資本コスト』と『負債コスト』と加重平均したものが、『WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)』です。

資本コストは資本収益性の評価にも用いられますが、誤ってはならないのは、資本コストと比較する資本収益性の指標です。代表的な資本収益性の指標を例にすると、以下のようになります。
 [株主資本コスト]と比較するのは、ROE(Return On Equity:自己資本利益率)
 [WACC]    と比較するのは、ROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)

ROE > 株主資本コスト
 であれば、企業が株主から調達した資本が投資家の期待リターンを上回っていることを示しています。従いまして、この資本収益性の評価は、株主目線で評価を行うときに用いられます。

ROIC > WACC
 であれば、企業が投下した資本のコストを上回る収益性を達成したことを示しています。

※ 東証は、2023年3月31日付「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」において、資本コストの例として、「WACC」及び「株主資本コスト」を挙げ、資本収益性の例として「ROIC」及び「ROE」を挙げつつ、「どの指標を用いるかについて一定の定めはありませんが、投資者ニーズ等を踏まえ、ご検討ください」としています。

【3】資本コスト算定サービス
当社では、株式価値算定(バリュエーション)業務で培ったノウハウに基づいて、資本コスト算定サービスを行っております。資本コスト算定は、基本的には、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)に基づいて行っております。(CAPMを前提としますが、これはシングルファクターモデルであり限界もありますので、マーケットで観察されている実際のデータに基づいて、追加的にサイズ・リスクプレミアムを考慮する場合もあります。)
なお、CAPMに基づく資本コストは、算定時点や前提条件によって変動するため、四半期ごとに算定するサービスも提供しております。

また、資本コストを超える資本収益性を実現しているか否かを評価するために、スプレッドの算定も行っております。
 ROIC-WACC:EVAスプレッド
  ROE-株主資本コスト:エクイティスプレッド

多様なニーズに対応していますので、まずはお問合せください。

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